蝋梅書屋
Wintersweet Den

日々思ったこと、作品に触れて考えたこと等の整理・備忘

全年10月16日の投稿8件]2ページ目)

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ひとりごと
理也くんがめぐみさんへの想いを再確認する話を描きたい
理也くん→めぐみさんの尊敬の情って肝要な気がする

小声

悋の小花(理めぐ)
#月影の鎖

 朝から霧のような小雨が降っていたから。月のものが近いから。最近忙しくて少し疲れていたから、とか。
 牛乳屋の店先で、言葉を交わす理也と女性の様子がやけに親しげに見えて、心臓のあたりが急に冷え込むような心地がした。些細なことにつまらぬ嫉妬をくすぶらせた言い訳を、昏々と脳裏で並べながら、めぐみは自分が情けなくなって近くの路地裏へ逃げ込んだ。
 あくまで遠目に見たかぎりだから、理也に見咎められていないことをめぐみは祈った。自分の醜いところなど、今まで彼の前で晒したことは数知れず――とはいえ、それでも羞ずべきだとめぐみは胸もとをきつく握り締めた。たかが、話していただけではないか。この気持ちを明かせば、少なからず理也を縛ってしまう。
(それは、駄目)
 項垂れながら首を横に振る。
 でも、と一片の感情が明滅する。このままやり過ごせることを祈る一方で、見つけてほしい、とも思っている。ちょうど袖の裾で、顔を覆った時だった。

「……こんな暗い所に入り込んだら、危ないですよ」

 聞き慣れた、低く柔らかい声が薄暗い路地裏に舞い込んできた。せめて何でもない風に取り繕えたら良かったのに―― 袖で覆った顔の、その目尻には薄く涙が滲んでいた。
 路地裏に身を潜めた女が何を考えていたのか、下手に語るより雄弁な有り様ではないか。めぐみは咄嗟に理也に背を向ける。

「ねえ、めぐみさん」

 名を呼ぶ声に戸惑いは無かった。理也の声色は、あたかも全て分かっていると言わんばかりの深さを湛えていた。
 理也はすっかり小さくなっためぐみの両肩にそっと手を置く。理也の体温を近くに感じ、めぐみの頬が知らず熱を持つ。しかし、理也を見返る勇気は持てずにいた。

「遠目に貴女を見つけて、すぐに切り上げて貴女を追ってきたんです」
「そう、……なんですか」

 理也にも、理也と話していた女性にも申し訳なくなって、相槌はぎこちなく震えてしまった。

「最近はね、少し淋しく思っていたんです」

 (え、)と、思わぬ言葉にめぐみは思わず顔を上げる。落ち着いた声で理也は続けた。

「俺が誰と話していても、平然としていることが増えて……それはそれで、俺への信頼が感じられるようで嬉しかったんですよ」

 ―― 本当ですよ?
 悪戯っぽく微笑む彼の表情が想像できて、めぐみは振り返りたくなったが、涙に濡れて赤らんだ顔を見られたくなって何とか堪えた。
 細い肩の形を確かめるかのように、両手で宥めるように撫でながら、理也は語る。

「でもね、久しぶりにめぐみさんの可愛いやきもちが垣間見られて、不謹慎ですけど、少しだけ……嬉しくなってしまいました」

 とうとう堪えられなくなって、めぐみは理也へと向き直る。理也は桔梗色の目を優しげに細め、ただただめぐみを見つめていた。その頬は淡く紅潮しているように見えたけれど、雨上がりの夕空のせいかもしれなかった。

「ひどいひと……」
「……すみません」

 言葉とは裏腹に理也は悪びれることなく朗らかに笑い、めぐみの両手を取る。互いの息が触れそうな距離まで身を寄せると、小首を傾げながら、めぐみに囁いた。

 ―― 許してもらえますか?

 ずるいです、と。
 微かな喜びを含んだ、女のささやかな訴えは、重なった二つの唇の奥に溶けて消えていった。

二次 文章

■のから

月影の鎖とpkmnが大好き。好きなキャラを軸に乙女ゲーム的関係性を思索するのが好き。家族(二親等内)も大事。lit.link