蝋梅書屋
Wintersweet Den

日々思ったこと、作品に触れて考えたこと等の整理・備忘

No.33

桔梗のおとない(理めぐ)
#月影の鎖

「理也さん、」

 呼びかけと共に控えめに外套の裾を引っ張られ、思わず目を瞬いた。
 めぐみと並んで歩いていたつもりが、いつのまにか一歩前を歩いていたらしかった。

「すみません、少し早かったですか」
「いえ、違うんです。あの……」

 よくよく見ると、少しだけ肩で息をしている。めぐみが少し後ろを振り向き、空いたほうの手で指差した。民家の庭先に、紫の花が咲いている。

「ああ。桔梗、ですね」

 すらりと伸びた茎が初夏の風を受け、涼しげに花が揺れる。星のように開いた花が一つ、その他はまだ蕾ばかりだった。おもむろにめぐみの指が伸びて、紙風船のように膨らんだ蕾をつつく。

「こないだ紫陽花が色付いたばかりですのに、もう桔梗の時季なんですね」

 桔梗は、理也としても思い入れのある花である。

「毎年、桔梗を見かけると理也さんを思い出していました」

 言いながら、花あさぎの瞳が微笑んだ。理也がいつも羽織っている外套は、桔梗の刺繍が施されている。想いを寄せている女に、思われて悦ばない男はそういない。理也も例に洩れず少しくすぐったくなって、帽子のつばを掻いた。

「……いつもは、思い出してくれなかったんですか?」

 一拍。きょとんとして、めぐみが目を瞬かせる。理也の言をようやく呑み込めたのか、たちまちその柳眉をハの字に下げた。薄い唇を微かに震えるのを、白い指で隠すしぐさがいじらしかった。

「理也さんの、いじわる」

 ほんのり染まった頬が愛らしいと思った。夏はまだ遠き淡青の空に風が薫る。すみれ色の長い髪がさらさらと揺れる。その可憐な想い人のありようが―― さながら桔梗のようだと、理也は思った。

二次 文章

■のから

月影の鎖とpkmnが大好き。好きなキャラを軸に乙女ゲーム的関係性を思索するのが好き。家族(二親等内)も大事。lit.link